酒蔵見学② ~茨城県・磯蔵酒造~

Category: ,

2023年2月22日(水)、茨城県笠間市稲田にある磯蔵酒造を見学させて頂きました。

蔵に到着し、まずはご挨拶。
今回ご案内頂いたのは、磯蔵酒造の蔵主・磯貴太(いそ たかひろ)さん。
大柄で威厳がある風貌とは裏腹に、快活な話し口で皆を楽しませて下さる磯さん。
(親しみを込めて磯さんと呼ばせて頂きます)。

まず磯さんから磯蔵酒造の歴史について教えて頂きました。

磯蔵酒造の始まりは明治元年で、今年で創業154年
この地で酒造りを始めた理由は、稲田の土地が日本酒造りに最適な場所であったからだそう。

 

磯蔵酒造のある稲田は、御影石(花崗岩)の一大産出地
今でも盛んに石切りが行われ、
最高裁判所や日本銀行本店(新館) [1]、最近では東京駅丸の内駅前広場の石畳 [2]など、
様々な場所で稲田産の御影石が使われています。

御影石は石灰分を多く含むため濾過作用があり、
石を浸透し滲み出る伏流水は鉄分が極めて少ない、酒造りに適した水になります。

この御影石から滲み出した石切山脈の地下伏流水を、
磯蔵酒造の初代蔵主・磯良右衛門が「石透水(せきとうすい)」と命名し、
江戸末期に酒造りを開始しました。
当時は農家と日本酒造りの両方を行っていたそうですが、明治元年に酒造業を独立。

当地、稲田がスサノオノミコトの奥様「稲田姫」に縁ある、
稲作の盛んな「稲の里」と呼ばれたことから、「稲里(いなさと)」を酒名に酒造業を独立し、
敷地内にあった数々の酒蔵・米蔵に因んで屋号「磯蔵」と呼ばれました。

ちなみに磯蔵酒造の「磯」は磯家の苗字から来ているわけですが、
稲田に磯の姓名が多い理由は、
「石が幾らでもある、石幾・・・磯」が由来となっているからだそうです。

今では海辺のイメージが強い「磯」という言葉なので、
内陸地の稲田とは結び付きませんでしたが、
蔵の歴史から物事の成り立ちまで、大変に勉強になりました。

 

磯さんから、
良いというのは、環境に始まり、材料から醸造、流通、そして皆さんに飲んで頂く瞬間まで、
たくさんのに支えられてこそ初めて成り立ちます。
酒造りは一期一会の積み重ねをモットーに、たくさんの人々との関わり合いの中で、
日々成長していく酒を造っていきたいですね。
そうして出来上がった酒が、また新しい関わり合いのきっかけになれたら最高です。
酒は人ありき・・・。人と人との潤滑油として存在するのが当蔵の考える理想の酒です。
だって、一番旨い酒が飲めるのはいつもいい仲間と飲むときですから・・・。
今日もまた、新しい関わり合いが生まれることを酒蔵一同楽しみにしております。」

と、メッセージを頂きました。

 

 

ついでにもう一つ物事の成り立ちの話。

酒蔵や酒屋には杉玉が置かれていますよね?
杉玉は正式名称を酒林(さかばやし)と言い、
これを飾ることで新酒ができた合図になると言われていますが、本来の意味は違うそうです。

今でも新巻鮭には杉の葉を模したものが同封されているのをご存知でしょうか。
実はあれも同じ意味合いで、昔、杉には殺菌作用があると考えられていました。

そのため杉の葉を丸くして飾ることで、新しくできたお酒が少しでも長持ちするようにと、
願いを込めて飾ったのが始まりだそうです。

飾るタイミングが新酒ができたタイミングであったため、
「杉玉=新酒ができた合図」
というイメージが独り歩きしてしまい、現在に至るそうです。

 

ほとんどの方が、ご存じなかったのではないでしょうか?

作りたての青い杉玉を見て、
「ああ、今年も新酒の時期が来たんだな」
と、認識するのは間違ってはいませんが、本来の意味は違ったんですね。

 

 

蔵に入って最初に目に入った、しめ縄
これも、どこの酒蔵にも必ず置かれていますよね。

遥か昔から蔵の内部は神聖な場所であり、杜氏や蔵人以外は入れない場所となっていたため、
しめ縄はよそ者を寄せ付けないための結界として置かれていたそうです。

ではなぜ神聖な場所と思われていたのでしょう?

これは昔、顕微鏡が無い時代は菌など微生物の存在が知られていなかったため、
発酵という概念がなく、お酒は神様が造っているものと考えられていたことに由来します。

現在ではお酒は麹菌酵母が造っているとわかっているため、
今日では神聖な場所という意義が薄れて誰でも蔵内に入れるようになっています。

 

御神酒(おみき)という言葉があるように、
お酒は神様に捧げるものというイメージがありましたが、
そうではなく神様が造っているものだったんですね!

今では誰でも蔵内に入って大丈夫と言うことなので、遠慮なくどんどん入っていきますよ!

 

 

磯蔵酒造の酒造りの特徴について。
こだわりは、目指す旨さのみ。

酒造りに重要なのは「素材、技法、思想、伝統」などではなく、
自分たちの目指す旨さが造れたかどうか、飲んで旨い酒であるかどうかが全て
と、確固たる理念を持ってお酒を造っています。
その上で、目指す旨さを造るために下記の三つを重要な要素としているとのことです。

石透水
稲田産の米

杜氏や蔵人の方々は酒蔵に住み着き、酒とともに寝起きしお母さんが赤子を育てるように、その「情熱」で、
目指す旨さ=米の味と香りのする(ライスィ)日本酒らしい日本酒
に仕上げます。

 

磯蔵酒造のこだわり=ライスィな日本酒!!
これが磯蔵酒造が目指す旨さということがわかりました!

当店でも「お米の旨味が強いお酒」と聞かれれば迷わず稲里をオススメしておりますが、
やはり磯蔵酒造としてもライスィな日本酒造りに強いこだわりを持っているんですね!

 

 

ライスィな日本酒造りにこだわりを持つ磯蔵酒造。
当然、原料米にも大きなこだわりを持っています。

上にも書いた通り、磯蔵酒造は地元・稲田産の米のみを使用しています。
昨今、地元の米を活用する酒蔵が増えておりますが、それでは地元の米を使うメリットとは何でしょう?

 

磯蔵酒造が考える地元の米を使う三大メリットとして、
まず一つ目は、輸送費が安い

二つ目は、米の生産者がお酒の宣伝をしてくれる
「うちの米で作られた日本酒、美味しいから飲んでみてね~。」
といった感じですよね。

そして三つ目。
これが一番重要だそうですが、良い米が何なのかわかってくれるということ。

では良い米とは何でしょう?
磯蔵酒造が考える良い米とは、自分たちが求めるお酒の味わいが造りやすいお米のこと。

当然、造るお酒の種類によって最適な米が異なります。

そのため、求める味によって何が良い米なのかが変わるため、
「この酒にはミネラル分がこれだけ入っている米が合うな」
「でんぷんが多い米の方が良さそうだな」

などのように、求める成分が必要なだけ含まれるお米の育成が重要になります。
そのため、生産者との距離が近いほど、生育状況や収穫のタイミングなどの相談ができるため、
求める味わいに最適な良い米の生産が可能になるわけです。

兵庫県特A地区の山田錦であっても、
自分たちが求める成分を含んでいない場合、良い米とは呼べないのです。

また精米に関してもどれだけミネラル分を残すか等も重要になるため、
精米歩合が高ければ良いお酒になるわけではないと強調しておきたいとのことでした。
一番重要なのはどれだけ削るかではなく、必要な成分をいかに残すかだそうです!

 

とことんこだわりの味を追求する情熱とそれを叶える技術、
それを生産者と蔵人が共有し、一丸となって動く姿、まさに和醸良酒ということですね。

 

 

洗米および浸漬について。

磯蔵酒造では洗米および浸漬を一番重要と考えているそうです。
なぜなら、同じ味を毎年造るためには手を抜けない工程だからだそう。

米の出来具合(成分)刈ってから置いておく時間
洗米・浸漬時の気温湿度などは毎年同じではありません。
そのため毎年同じ味を造るためには、洗米・浸漬における米の吸水率が一定になるよう、
職人の技術で常に調整をしながら酒造りを進めなければなりません。

磯蔵酒造では扱う全てのお米を常に同じ温度の水で1秒単位にて洗米および浸漬する、
全量限定吸水を行っているそうです。
単に美味しいお酒を造るだけであれば限定吸水は必要ないそうですが、
同じ味を造るには一手間、二手間加え、毎年同じように造る工夫が必要というわけですね。

 

ライスィな日本酒を造ることに加え、毎年同じ味を届けることへの並々ならぬこだわり、
これぞ磯蔵酒造の真骨頂と言えそうです。

 

 

麹の話。

アルコール飲料はすべて、糖分を原料にアルコールを製造しています。

日本酒造りにおいて特徴的なことは、米に存在しない糖分を麹を使って作り出している点。
麹が作る酵素が米のでんぷん質を糖に変換する機構を持ちます。

と言うと、
「あれ? 糖質が無いなら食べすぎても太らないんじゃないの?」
という意見が出てくると思いますが、
人間が米を摂取する場合は、
唾液に含まれる消化酵素のアミラーゼが、米のでんぷんを糖に変換する役割を持ちます。
この機構により、糖質のエネルギーを体内に蓄えることが可能になります。

そんな糖を作り出す重要な役割を担う麹ですが、磯蔵酒造では麹作りにも余念がなく、
麹作りの担当者は3日間麹室に付きっきりで、2時間おきに麹の状態を確認するそうです。
そこまでしなくても美味しいお酒はできるそうですが、
やはり毎年同じ味を造るためにはそこまで気にしなくてはならないそうです。

 

 

味の再現性という点に関して、
日本酒はベースとなる糖を自分達で作り出すため、酒の味に影響を及ぼす要素全てを職人の技でコントロールして味の構築や再現をできることが日本酒のアイデンティティーだろう。
とのことです。

毎年変わる米の品質や毎日変わる気候などの環境の中、
熟練の杜氏と蔵人達が都度「」を変える事で毎年変わらぬ味を造り続ける弛まぬ努力、
これは本当に凄い事です。

日本が誇る日本酒製造の技術がいかに凄いものなのかということを、目の当たりにしました。

 

 

ちなみに酒蔵で働く方々を何気なく蔵人と呼んでいますが、
蔵人とは蔵に寝泊まりしてお酒と共に過ごす(お酒を造る)人のことだそうです。
単に、お酒を造る人は酒造工と呼ばれるそうです。

もろみや麹の管理を機械で行うことも多くなった昨今、
全国的に蔵人の数は減り、酒造工の割合が高くなっているそうです。

 

そんな中、蔵に半年間寝泊まりし、時には寝ずに作業を続ける磯蔵酒造の蔵人の皆様。
このような方々の努力によって我々の手元に美味しいお酒が届いているわけですね。

「蔵人の思いや技術、お酒の美味しさを我々がしっかりと伝えていかないといけないな」
と、再認識いたしました。

 

 

最後に記念撮影。
磯さんお忙しい中、見学のご対応ありがとうございました。
具体的な造りの話だけでなく、磯蔵酒造のこだわりから酒造りの歴史まで詳しく解説頂き、
日本酒業界に従事する者として成長できたと感じております。

ご教授頂いた、
「米作りにはじまり、資材に配送、酒屋さんに呑み屋さん、そして酒を呑む人、どこが欠けても酒は造れない」
というお言葉、肝に銘じておきます。

 

 

 

酒は人ありき。

 

 

 

執筆者:ヒデ

 

 

 

 

参考文献

  1. 長秋雄, 建築素材・芸術素材としての花崗岩, 地質ニュース 2008, 643,42―43.
    (https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/08_03_19.pdf)
  2. 広報かさま1月号 2008, 142, 18―19. (https://www.city.kasama.lg.jp/data/doc/1515574751_doc_1_0.pdf)