酒蔵見学⑤ ~茨城県・武勇~

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2023年5月24日(水)、茨城県結城市にある酒蔵・武勇を見学させて頂きました。

熟成した旨味の強いお酒を造るイメージの強い武勇ですが、近年では華やかフルーティーなお酒も数多く造るようになり、「何でも造れるテクニシャンな酒蔵」のイメージも持っております。

そんな変幻自在な武勇はどのような設備、どのようなこだわりを持ってお酒造りを行っているのか、見学して参りましたので、レポートします!!!

 

 

今回案内してくださったのは、こちらのお二人。
左から高橋寛(たかはしひろし)さん深谷篤志(ふかやあつし)さん

通常の酒蔵は、杜氏がお酒の全製造工程における責任者を務めるのですが、武勇は各工程それぞれに責任者がおり、「杜氏が存在しない」という珍しい形を取っております。

高橋さんは製麹の責任者深谷さんは酛の責任者です。
お二人の他に原料処理および蒸米の責任者瓶詰めの責任者がおり、合計4名の責任者がおります。

 

 

蔵の見学を始めて最初に目に入ったのが、大きな精米機!
精米を外部に委託する酒蔵が多い中、武勇では自社での精米にこだわっております。

現在は精米の技術が上がり、数%程度の高精白の精米や扁平精米などが可能になったそうなので、精米は専門業者に依頼して、自社で精米を行う蔵は減っているとのこと。
自社精米する場合は、精米代が掛からないため仕入れのコストを削減できるなどのメリットがあり、精米に時間が掛かる、砕米が多いなど、お米の出来具合などに関して得られる情報も多いことから、自社で精米を行うことはお米の状態を知るという観点で大きな意味があるそうです。

また精米後のお米は空気中の水分を吸わせた方が割れにくいと考えられていたそうですが、数年前に水分を吸わせると割れやすくなるということがわかったらしく、現在では水分を吸わないように細心の注意を払っているそうです。

 

日本酒の歴史はとても長いのですが、まだまだ分かっていないことが多いのですね。
本当に奥が深い世界です。
さらに技術が上がってもっと美味しい日本酒が製造可能になると思うとワクワクしますね!

 

 

精米技術についても教えて頂きました。

心白は脆いため、心白だけを磨き続けるのは難しいとされてきたそうですが、近年では精米技術が上がり、10%以下の高精白も可能になってきたそうです。

そこまでの高精白のお米はかなり小さくなるような気がするので、
「削った米粉と区別ができるのでしょうか?」と深谷さんに聞いてみたところ、

精米歩合は大きさではなく、重量で定義されています。」
「例えば100kg分の玄米を精米して、1kgになったとすると、重量が100分の1なので、精米歩合は1%となります。心白は隙間が多く軽いため、基本的にお米は外側の方が重く、また精米中には水分も飛んでいくので、削れずに飛んでいく水分の重量も加味すると、仮に精米歩合が1%であっても残ったお米(心白)は意外と大きいはずです。」

とのことでした。

1%まで磨くのは何千時間(?)など相当な時間が掛かるそうですが、例えば精米歩合60%程度であれば武勇保有の精米機の場合は8時間くらいで磨き終わるそうです。
ところが50%まで磨くとなると、米が割れやすくなってくるため、30時間近くかかるそうで、40%まで磨く場合はさらに一日掛かるそうです。
精米に時間が掛かると電気代がとてつもなく高くなるそうですが、それでも精米業者に注文するよりは安く済むそうなので、やはり自社での精米には大きなメリットがあるそうです。

武勇保有の精米機の場合は35%の精米歩合まで磨くことが可能だそうで、また精米歩合を1%単位で変更可能だそうなので、お客様からの細かい磨きの注文にも臨機応変に応えられるそうです。

 

気になる事ばかりで質問攻めにしてしまいましたが、何にでも快く答えてくださる深谷さん。
ご丁寧にありがとうございます!

 

 

お馴染みの洗米機、ウッドソン。

ジェット水流に気泡を送り込み米を一粒一粒ほぐして洗浄する、ウッドソン保有技術のMJPを3か所に設置しており、3連続で洗米を行う仕組みとなっているそうです。
またバッチ式(1回転のみ)のタンクが2つ接続されており、一つのタンクを通ったお米が、もう片方のタンクまで運ばれ、2台連続で使用できるため洗米作業が早く完了できるそうです。
洗米はMJPを介して行われ、タンクを通す理由はサイクロン効果により米と糠を分離するため。
洗米終了後は水流に乗ってお米が窯場まで運ばれるようになっているそうです。

お酒の主成分は7割が水のため、仕込み水や洗米時に使用する水の成分は極めて重要だそうです。
武勇では170m地下から井戸水をくみ上げているそうで、地下深くの井戸水は表層の影響を受けづらいので水質が安定し、毎回同じ条件での仕込みが可能だそうです。

お米の状態は毎年違うため、水質だけでも均一になれば酒質に影響を与える要素を制限できるため、安定したお酒造りが可能になるとのことです。
酒質の安定=酒蔵の信用となるため、レギュラー商品は毎年同じ味わいになるように調整しているとのことでした。

 

参考
(株)ウッドソンHP - 酒造用洗米機 コメクリーンMJP洗米機 –
https://oemmndcbldboiebfnladdacbdfmadadm/http://www5a.biglobe.ne.jp/~woodson/senmai/2022.7new%E3%80%90renzoku%E3%80%916.pdf

 

 

ウッドソンで洗米されたお米は、ホースを通ってこちらのタンクに運ばれ、着水した瞬間から浸漬工程に移ります。
毎回10kgずつ浸漬を行い、浸漬時間は通常は12分ほど、粒が小さい大吟醸の場合は吸水が早いため6分少しで上げるそうです。
その後、蒸米工程に移ります。

写真は資料を見ながら洗米・浸漬工程の勉強をしている様子。

 

 

武勇では伝統的な竈を使用して蒸米を行っています。

熱源には、昔は石炭を使用していたそうですが、現在は灯油のバーナーを使用しているそうです。
写真右下の大きな鉄釜に水を入れ、火を付け下から熱することで蒸気を作り、写真右上のせいろに入ったお米を蒸す仕組みになっているそうです。
こちらの鉄釜には1400Lの水を入れることが可能だそうで、一度に蒸すことが可能なお米は1tほどだそうです。

蒸米について、深谷さん曰く「一般的にはゆっくり柔らかく蒸したほうがアミノ酸が生成されやすい」と言われているらしいですが、ボイラーの高温蒸気を使って短時間で蒸米を行う蔵もあり、良い蒸米の方法については諸説あるそうです。
理由として、実は蒸気の専門家が醸造業界に入ってきていないという背景があるらしいですが、それだけ様々な議論が巻き起こるほど探求心を持ってお酒造りを行っていることが凄いですよね。

 

ちなみに、こちらの竈は長く使用しているものだそうで、修理をしながら使い続けているそうですが、竈の職人さんがほとんどいないため、原料処理&蒸米担当の川崎さんが竈の修理を行っているそうです。
川崎さんはとても器用な方だそうで、何か不具合があると何でも川崎さんが直してしまうそうです(笑)

 

 

そして高橋さんから、日本酒造りの要となる製麹工程についてご解説頂きました。

麹室は3部屋に分かれており、工程の順番に、
麹菌の種を撒く(種切り)部屋
麹を成長させる盛り室
麹米の温度を下げて麹の成長を止める出麹室
となっているそうです。

部屋を分ける理由は、
段階ごとに最適な室温および湿度が異なるため、調整が可能なように部屋を分ける必要があるから
だそうです。

まず最初の種切り部屋に蒸米を広げて、室温40℃ほどで適度に乾燥させるそうです。
そして種切りを行い、今度は上にカバーを掛けて乾燥を防ぐことで麹菌の発芽を促し、その後盛り室にて麹蓋(こうじぶた)の上で乾かしながら成長させるそうです。
以降の出麹の工程までは、目標となる水分量を目指し、ずっと乾燥させながら成長を促すとのことです。

目標とする水分量について、米を洗った段階で重量での水分量が全体の30%、蒸米後で42%ほどとなるそうで、そこから32%まで水分を飛ばしてから種を切り、成長させて最終的に20%ほどまで水分を飛ばして完成となるよう調整しているそうです。

 

 

こちらは製造中の甘酒の麹米。
大吟醸などのお酒を造るときは米100kgに対して種麹を10gほど撒くそうですが、甘酒の場合は200gも撒くそうです。

種麹の量を変える理由は、
量が少ないと突破精(つきはぜ)、多いと総破精(そうはぜ)の麹米になりやすいから」だそうです。
※麹菌がお米の表面を部分的に覆い内部まで繁殖した状態は突破精、お米の表面全体を覆い内部まで繁殖した状態は総破精と呼ばれます。

通常、突破精のお米はスッキリした味わいになりやすく、総破精のお米は甘みが出やすいといった違いがあり、大吟醸などの高精白のお酒は突破精、甘口のお酒は総破精の麹米製造を目指すそうです。

 

 

  • 麹菌の種類と性質

最近では従来から使用されてきた黄麹だけでなく、焼酎造りに用いられる白麹黒麹などを使用した日本酒も増えてきました。
ではなぜ、「日本酒造りでは黄麹」で「焼酎造りでは白麹・黒麹」が使われるのか。

白麹および黒麹は酸度を高くする性質があります。
現在のように酸度をコントロールする手法が無い時代は、日本酒が酸っぱくなりすぎるため、日本酒造りでは白麹および黒麹は用いられませんでした。
蒸留すると酸は流れていくため、焼酎造りでは白麹および黒麹が使えるとのことです

そして黄麹菌は熱に弱い性質があります。
そのため、温暖な気候の九州では黄麹菌を使用する日本酒造りが盛んではなく焼酎造りが主流になったと考えられています(昔は四期醸造が主流で、夏場の醸造が難しかったという背景もあるそうです)。
また逆に黄麹菌では酸度を高くするのが難しく、雑菌に弱くなってしまうことから、焼酎造りにおいては白麹および黒麹が適しているそうです。

現在では技術の改善から、「日本酒造りで白麹および黒麹」、「焼酎造りで黄麹」が使用可能になっていますが、歴史的な背景を踏まえると、
「それぞれの麹菌の性質および気候の両側面から、主流なお酒造りの種類と製造地が分かれていった」と言えます。

 

まとめると、
・ 温暖な気候の九州では黄麹菌が使えず、熱に強い白麹および黒麹を使用する焼酎造りが盛んになった
・比較的寒冷な九州以北では、黄麹菌が使用可能で、高温に弱い日本酒造りが主流になった
ということですね。

 

  • 麹菌の特性

麹菌は生き物なので、呼吸をします。
人間と同じで、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出します。

麹米の製造に当たっては二酸化炭素の濃度が重要になるそうで、6~10%くらいの濃度を保つと麹菌が米の内部までよく繁殖するそうです。
麹蓋や麹箱、どちらの場合も麹米を乗せた後に積み上げることで空気が籠るため、一定の二酸化炭素濃度を保つことが可能になり、麹米が内部まで繁殖した、良い麹米の製造が可能になるそうです。
また、麹蓋や麹箱に小分けにして乗せることで、乾燥しやすくなるといった意味合いもあるそうです。
温度水分量および二酸化炭素濃度のどれが欠けても駄目なので、これらをいかにしてコントロールするかが製麹の肝だそうです。

最近ではタライ麹と呼ばれるプラスチック製の容器に麹米を入れ、蓋をすることで二酸化炭素濃度を一定に保つ手法や、保温しながら水分量を調整可能なゴアテックス素材のカバーをすることで製麹する手法なども出てきているそうで、酒蔵によって製麹手法は多種多様に進化しているそうです。

また現在では温度や水分量、をコントロールし、全自動で麹米の生育を行う装置も開発されているそうです。

 

昔から一麹、二酛、三造りと言われるほど、お酒造りにおいて製麹工程は大事とのことでしたが、初めて学ぶことが多くて大変に勉強になりました!
髙橋さん、ありがとうございました。

 

 

見学後は武勇のお酒を試飲させて頂きました。
出来立てのフレッシュでジューシーなお酒から、武勇らしいどっしり系まで、以下全9種類。

◎武勇 純米大吟醸 愛山
◎武勇 純米吟醸 山田錦
◎武勇 特別本醸造 山田錦
◎武勇 純米酒 山田錦 生酛仕込み 直汲み無濾過生原酒(ナダヤ酒店 PB酒)
◎智仁武勇(ちちんぷいぷい) 酵母無添加生酛 無濾過生原酒
◎武勇 特別純米 ひたち錦 白麹仕込み
◎武勇 純米酒 山田錦 生酛仕込み
◎武勇 純米酒 愛山 生酛仕込み 29BY
◎武勇 燗熟 29BY

 

 

やはり武勇が造る山田錦のお酒は本当に味が強く、「武勇 純米吟醸 山田錦」は華やかでゴージャスな味わい、「武勇 純米酒 山田錦 生酛仕込み」はずっしり旨味が濃縮された飲みごたえのある重厚な味わいで、本当に美味しかったです。
そして近年見直され始めているアルコール添加タイプのお酒ですが、「武勇 特別本醸造 山田錦」は華やかな香りと旨味の強さ、キレの良さ、全体のバランスが本当に素晴らしいお酒でした!

特別純米 ひたち錦 白麹仕込み」はもはや定番となった武勇の人気酒で、白麹由来のクエン酸を感じる甘酸っぱく優しい味わいに、武勇らしいお米の旨味を乗せた、華やかかつ飲み応えのある一本。
一見、派手な味わいですが飲み飽きしない絶妙なバランスに造られているのが流石です!

華やかなお酒を造るのも得意な武勇。
武勇 純米大吟醸 愛山」は小川酵母(協会10号酵母)仕込みらしく、マスカットのような風味を感じる華やかな香りに愛山らしい甘みが乗り、とってもジューシーで、さらに純米大吟醸らしいクリアな味わいまで両立した極上のお酒でした!
智仁武勇(ちちんぷいぷい) 酵母無添加生酛 無濾過生原酒」は、酒蔵でしか飲めないであろう造りたての超絶フレッシュな味わいで、「酵母無添加生酛仕込み&等外米を使用」とは思えないほど華やかでスッキリ綺麗なお酒で、
「何でこんなに美味しくなるの?」と驚きを隠せない、本当に不思議で素晴らしいお酒です。
(筆者、大ファンのお酒です♪)

武勇 純米酒 愛山 生酛仕込み 29BY」と「武勇 燗熟 29BY」は甘みとまろみが出た貴重な熟成酒で、やはり武勇の熟成酒には香りの重たさが無いため、飲みやすく、じっくり味わいを楽しめるように造られていて本当に凄いなと、いつも思います。

また、新たに製造して頂いたナダヤ酒店PBのお酒も今回初めて頂けました。
まさか発売前に試飲できるとは!

沢山ご馳走様でした!
ありがとうございました!

 

 

最後に深谷さんに、
「武勇は様々なタイプのお酒を造っておりますが、武勇と言えばこれ!という主軸になるお酒はあるのですか?」
と聞いたところ、

「うちの売りはコレです」

と言われ見せていただいたのが、「武勇 辛口純米酒(下の写真)」でした。

 

どんなお酒も作れるけれど、辛口で味わい深く、冷酒から熱燗まで、どのような飲み方でも美味しく頂ける武勇の辛口純米酒、コレが売りだったんですね!

色々なお酒造りに挑戦しているけれど、最終的には辛口純米酒を好きになってもらえたら嬉しいとのことでした!
当店でも今以上にお客様にオススメをして、沢山売れるように頑張ります!

 

 

最後に記念撮影。

杜氏が存在しない代わりに、それぞれの専門性を極めた担当者が一丸となり、お酒造りを行っている武勇。
プロフェッショナルな方々から直接お話を聞ける、またとない貴重な機会となりました。

髙橋さん、深谷さん、蔵の皆様、お忙しいところ見学のお時間を頂き、ありがとうございました!

 

 

執筆者・ヒデ